手術について

手術について

当科では、 虚血性心疾患をはじめ弁膜症や血管の病気や先天性の心疾患 について診療を行っております。 このホームページでは、患者さんが病気や手術の事を理解する上で少しでもお役にたてればと考え、代表的な疾患を紹介させていただいております。

これから手術をお受けになる患者さん・ご家族へ
心臓手術は、あらかじめ手術を申し込まれた方から、患者さんの症状や手術の緊急性、ご家族の事情などを考慮した上で手術の日程を決定しています。そのため緊急手術や病床数の不足などの事情から、手術を受けるまでにある程度の期間を要する場合があります。我々はできるだけ早い時期に手術を行うように努力しておりますが、手術予定日の連絡が遅いと思われた際にはご遠慮なく当センターまでお問い合わせ下さい。また入院日はベットの混み具合にもよりますが手術予定日の3~4日前になります。
心臓手術は外科手術の中でも極めて高度の知識や技術を要し、医師・看護師・臨床工学技師などでチームを組み手術を行っています。心臓手術について少しでも深くご理解いただく事で、不安を解消し病気と向き合っていただけたらと考えています。
心臓手術は大きく2つに分かれます。1つは心臓の表面や血管に対する手術で、心臓が動いたままで行います。この中には冠動脈バイパス術や一部の先天性心疾患の手術が含まれます。もう1つは心臓の拍動を止めて行う手術で弁膜症や大動脈手術、先天性心疾患手術など多くの心臓手術に対して人工心肺装置を用いて行います。
当科での手術を受けていただくために、以下の項目についてご説明します。
  1. 人工心肺装置
  2. 心停止・心筋保護・低体温
  3. 手術合併症
  4. 輸血に関して
  5. 手術当日の流れ
  6. 術後経過
  7. 術後検査内容
  8. 退院後
※これらの内容はPDFでもご覧いただけます。 手術について
1.人工心肺装置
手術中に自分の心臓の代わりに全身に酸素化した血液を送り続ける補助循環を人工心肺装置といいます。これは全身から心臓に戻ってきた血液を太いチューブを用いて体外に導き (脱血)、人工肺で二酸化炭素と酸素を交換し、ポンプを用いて体の動脈に送る(送血)、という働きをする装置です。この装置を使用する為には、血液の凝固能(血液が固まろうとする作用)を調節する必要があります。 人工心肺装置
2.心停止・心筋保護・低体温
心臓の栄養血管である冠動脈に特殊な薬液(心筋保護液)を定期的に注入することで、心臓を止めつつ、さらに心臓の筋肉 (心筋)がダメージを受けないようにする事ができます。しかしながらその効果は3時間ぐらいまでなので、決められた時間内に心臓や血管の修復を行う必要があります。また、臓器保護の目的で手術中に人工心肺装置を用いて体温を軽度下げて行なう場合もあります。
3.手術合併症
手術の合併症は大きく心臓自体の合併症と全身の合併症に分けられます。
心臓の合併症には手術で血液の凝固能を調節するが故に、心臓や血管からの 出血 があります。また血液などが心臓の周囲に沢山溜まると心臓を圧迫し ( 心タンポナーデ )血圧が下がるため排液する必要があります。また心臓を止める時間が長かったり心筋が障害を受けると( 心筋梗塞 )、心臓の機能が低下( 心不全 )することがあります。強心剤と呼ばれる薬剤を投与して心臓の働きを助けますが、薬剤だけで効果が不十分な際には、機械を用いて循環を補助することもあります。そのほかに心臓手術の影響などで心臓のリズムが狂う( 不整脈 )事があります。命にかかわる重大な不整脈(絶対的不整脈)が生じた際には緊急処置が必要です。また心臓の拍動が遅い場合には体外式のペースメーカーを用いて刺激する事もあります。
全身の合併症は身体のあらゆる臓器に起こります。それは心臓が身体のすべての臓器に血液を供給しているからです。中でも特に代表的なものには 脳障害、肝・腎障害 や 肺合併症 が挙げられます。また手術侵襲やストレスなどで患者さんの抵抗力が極端に低下した状態が長く続くと 感染症 を併発する事があります。中でも多くの抗生物質に抵抗力をもつ多剤耐性菌による感染を併発した場合は難治性で、手術で植え込んだ人工弁や人工血管などの人工物に感染した場合は再手術しなければなりません。
4.輸血に関して
心臓手術では心臓や血管などの血液の通り道を切開したり縫合したりするため、ある程度の出血は仕方がありません。手術中の輸血は主に出血した分を補ったり、人工心肺装置で循環血液が希釈されたのを補ったり、血が止まりにくい時などに使用されます。 自己血貯血 当科では疾患や病状の程度に応じて、手術までの期間に余裕がある患者さんは外来で自己血を貯血しています。一般的には 1200cc程度を目標 に貯血を行なっていますが、手術の際に自己血だけでは足りなくなっても他人の血液を輸血する量が減るため、ウイルス感染やアレルギー反応などの危険性を減らすことができます。自己血貯血を希望される患者さんは外来担当医とご相談の上、可能かどうか判定させていただきます。
5.手術当日の流れ
食事は前夜の夕食後から絶食となりますが水分は手術当日の朝 7時まで摂取できます。それ以降、点滴を開始し麻酔前投薬が出されます。その後ストレッチャーで病棟(6階)を出発し9時に手術室(5階)に入室します。手術中は、ご家族の方は家族控え室で待機していただきます。
手術終了後はストレッチャーで集中治療室 (ICU)に入室します。入室後は胸部写真や心電図などの諸検査を行った後、ご家族にご面会していただきます。面会後は状態が落ち着いていればご自宅で待機となります。 集中治療室 (ICU)
6.術後経過
集中治療室は 24時間体制で患者さんの治療・看病を行う事ができます。麻酔から十分に覚醒しましたら呼吸訓練を行い人工呼吸器から離脱します。気管チューブを抜管後も呼吸・循環動態が安定していれば、水分を飲むことができます。その後、食事・内服も開始します。経過が順調であれば手術の翌日からベッド離床へ向けてリハビリを開始します。術後2~3日で心臓外科の一般病棟(6階)に転室し、本格的な心臓リハビリを開始します。当科では1ヶ月以内に退院できるように、計画を立てて積極的にリハビリを行っています。
7.術後検査内容
手術後 2週間目頃より、手術の効果を評価するために心臓超音波検査や24時間心電図などを行います。症例によってはさらに胸部のCT検査などを追加して行っています。特に冠動脈バイパス術を受けた患者さんは、従来は心臓カテーテル検査を行っていましたが、最近では胸部のCT検査(コロナリーCT)でつないだ血管の評価をする事が可能になりました。 コロナリーCT検査(立体画像)
8.退院後
退院後は、地元の病院 (紹介元の病院)で投薬を受けていただきます。前胸部に傷のある患者さんは手術の際に胸骨を切断・ワイヤー固定しておりますので、術後2~3ヶ月間は重い物を持ち上げたり激しい運動を控えていただきます。また当センターでは、術後の定期的検査として、年一回、心臓血管外科の外来に受診して頂き、精密検査を行っております。

ステントグラフト内挿術はカテーテルを用いて動脈瘤の治療を行う血管内治療の1 つです。ステントグラフトは金属製の特殊なバネと人工血管で出来ています。このステントグラフトを小さく折りたたみ、シースと呼ばれる管を用いて下肢などの動脈から治療目的とする動脈瘤の位置まで運搬し、大動脈に拡張固定します。ステントグラフトにより動脈瘤内の血流を遮断し動脈瘤を血栓化することで破裂を予防します。(写真1) 腹部大動脈瘤とステントグラフト内挿術による治療(写真1)
ステントグラフト内挿術は従来の人工血管置換術と比較して、患者様の体に優しいことが大きな特徴です。具体的には、開胸、開腹をすることなく動脈瘤の治療を行うことが可能であり、特に胸部大動脈瘤の場合には、人工心肺装置(当ホームページ内の手術について;後天性心・血管疾患をご参照下さい)を使用せずに治療可能です。創部が小さいため痛みを軽減でき、早期リハビリが可能となりました。多くの患者様が術後約1 週間から10 日前後で退院し、社会復帰を果たしております。また、開胸・開腹による人工血管置換術が困難な患者様や高齢で手術をあきらめていた患者様にとっては、新たな治療の選択肢となっています。
現在、国内で市販されているステントグラフトは胸部大動脈瘤用が1 種類(写真2)、腹部大動脈瘤用が3 種類(写真3~5)あります。これらの使用にあたっては、手術を行う病院の施設認定と手術を行う医師の実施医認定の2 つが必要です。2009 年1 月現在、当院は全てのステントグラフトの使用が認められている岩手県内で唯一の病院です。また、手術の専門である心臓血管外科医と、カテーテル治療の専門である放射線科医または循環器内科医が共同で手術を行うことも当院の大きな特徴です。共同で手術を行うことにより、安全で質の高い治療が達成できるように取り組んでおります。
当院では動脈瘤の位置や患者様の全身状態等により人工血管置換術とステントグラフト内挿術のどちらの治療方法を選択していただくかを総合的に判断し、治療を行っています。 米国ゴア社製タグ(胸部大動脈瘤用)とタグを用いた胸部大動脈瘤治療 (写真2) 米国ゴア社製エクスクルーダー(腹部大動脈瘤用)(写真3) クック社製ゼニス(腹部大動脈瘤用)(写真4)  米国エンドロジックス社製パワーリンク(写真5)

これから手術をお受けになる患者さん・ご家族へ
心臓手術は、あらかじめ手術を申し込まれた方から、お子さんの症状や手術の緊急性、ご家族の事情などを考慮した上で手術の日程を決定しています。そのため緊急手術や病床数の不足などの事情から、手術を受けるまでにある程度の期間を要する場合があります。我々はできるだけ早い時期に手術を行うように努力しておりますが、手術予定日の連絡が遅いと思われた際にはご遠慮なく当センターまでお問い合わせ下さい。また入院中は付き添いが必要です。
手術日 火曜日(前週の木曜日入院)
金曜日(同週の月曜日入院)
入院時は、当センター小児循環器科に入院していただき、手術に必要な検査をさせていただきます。可能な限り入院時、ないしは手術の数日前に手術の説明をさせていただくように予定を組んでおります。
手術の説明は、大変重要ですので、必ずご両親そろって御聞きいただきます。また説明中はお子様は、当センターの看護師がお預かりし、ご両親に説明に集中していただくよう配慮しております。
説明の内容
※これらの内容はPDFでもご覧いただけます。 手術について
手術は、我々外科医と、小児心臓麻酔を専門とする麻酔科医、経食道エコーを行う小児循環器医、人工心肺を操作する小児専門の臨床工学士、そして熟練した看護師(心臓手術経験3年以上)のチームによって行います。 先天性心疾患 手術チーム 手術後は、大人の方と同じ集中治療室に入りますが、子どもの扱いに慣れた熟練した看護師が担当します。集中治療室では、早期抜管、早期離床を目指し、また抵抗力を強くする為、なるべく早く経口栄養摂取が出来るようにし、ご両親にもお子様の活動性を上げる為にご協力いただくことになります。
集中治療室にいる間は、付き添いが出来ません。しかしこの間、緊急連絡をさせていただく可能性もございますので、病院近辺に宿泊施設を確保していただき待機していただく事になります。 宿泊施設の斡旋はいたします。
集中治療室から一般病棟に戻りますと、再度小児循環器科の担当となり、退院まで、外来を通して一貫した治療を行わさせていただきます。
心臓の基本構造
心臓は、外から見るとポンプの役割をする一つの筋肉の固まりですが、その中は、4つの部屋( 左右心房、左右心室 )に分かれています。特に心臓のポンプとしての役割は、左右心室が行っています。右心室は肺への、左心室は体へのポンプになります。
心房には全身ないし肺から血液が戻ってくるための血管( 大静脈、肺静脈 )が繋がっており、心室には肺ないし全身に血液を送り出すための血管( 肺動脈、大動脈 )が繋がっています。 心室は、収縮と拡張を繰り返しています。拡張する事により血液を吸い込み、収縮する事で血液を送り出します。
左右それぞれの心房と心室の間には、収縮時の心室の血液が心房に逆流しないように逆流防止弁があり、それぞれ 三尖弁、僧帽弁 と呼びます。また心室から全身、または肺に送り出された血液が逆流して心臓に吸い込まれないように逆流防止弁があり、 肺動脈弁、大動脈弁 と呼びます。
右房、右室には全身で酸素を使い終わった静脈血が流れ、左房、左室には肺で酸素を沢山含んだ動脈血が流れます。
また左右の心房心室の間には、静脈血動脈血が混ざらないように壁があり、それをそれぞれ 心房中隔、心室中隔 と呼びます。
皮膚切開 心臓に到達するためには?
正中切開  胸を真っすぐに開けます。
心房中隔欠損閉鎖術は希望により右開胸で行います。
胸骨の後ろに心膜に包まれた心臓があります。心膜を開けると心臓に到達します。
後側方開胸  背中側を斜めに開けます。
心臓以外の血管の手術(例えば動脈管開存症など)では、右開胸、左開胸に手術を行う事が有ります。
この場合は、自分では直接見えない部位となる肩甲骨の下方を斜めに数cm切開します。 心臓の中を手術で治すために必要なことは? 1)心臓の中を空っぽにする。
2)心臓の動きを止める
1)心臓の中を空っぽにする。
人工心肺  心臓の中を空っぽにする装置
上下の大静脈に管を入れ、全身から返ってくる血液をすべて一旦体の外に導き、ポンプに送ります。更にそのポンプの力により、血液から二酸化炭素を排出し、酸素を得るために人工肺を通過させます。これにより酸素化された血液は大動脈に繋がれた管から全身に送られます。この装置により、心臓手術中、心臓と肺を血液が通過する事なく全身に血液循環を保つ事が出来ます。
大動脈に送られた血液一部は、大動脈の最も心臓に近い部位から出ている冠動脈にも流れます。人工心肺を使うと、心臓の中が空になり、冠動脈に血液が流れ、心臓は血液を送り出す事なく動いたままになります。麻酔がかかって人工心肺を使用している状態は、心臓を車のエンジンに例えると、エンジンだけがアイドリングで動いている状態を想像してください。
当院では、二人の専門の臨床工学士が専属で手術中この装置を操作しています。
2)心臓の動きを止める
心筋保護液  心臓を長時間止めるための特別な液
心臓が動いたまま細かな手術するのは難しく、心臓の動きを止める必要があります。このため人工心肺から大動脈に送った血液が冠動脈に行かないように、大動脈を遮断し、血液が冠動脈に流れないようします。すなわち心臓の筋肉を酸欠状態にします。ただ単に酸欠状態にしますと、生きている心臓の筋肉が障害を受けてしまい、再び血液を流しても心臓は動かなくなってしまいます。
そこで安全に長時間心臓を停止させるために 心筋保護液 を冠動脈から心臓の筋肉に注入します。心筋保護液は低温でかつカリウムが多く含まれており、心臓の筋肉が電気的に興奮しない状態を作り、心臓内のエネルギーの消費を抑える働きがあります。 冠動脈に血液が流さずに心臓が止めた場合
心筋保護液で120分間心臓だけを安全に冬眠させていると想像して下さい。
合併症について
心臓手術は、人工心肺を用い、心停止で行う特殊な手術です。全くリスクを伴わない手術では有りません。ここで、一般的な心臓手術の合併症について説明します。
それぞれの項目をクリックして下さい。

2007年10月12日
自己心膜による大動脈弁形成術の新生児手術の成功を公表しました。
岩手医大附属循環器医療センターは12日、心臓の弁が正常に機能しなくなる大動脈弁閉鎖不全症のため、一時心肺停止状態になった生後 12 日の男児に、本人の心臓を包んでいる薄い膜(心膜)で弁を形成し、取り付ける手術に国内で初めて成功したと発表した。同じ病気を抱える新生児への治療法として、大きな前進といえそうだ。
男児は3月に沿岸部で生まれ、直後に大動脈弁閉鎖不全兼狭窄(きょうさく)と、心室の間に穴が開く筋性心室中隔欠損と診断された。生後7日後にショック状態となり、9日で同センターに搬送したが、途中で心停止して心肺蘇生を行った。回復を待ち、12日目に手術を行った。
手術は5時間半にわたり、心臓血管外科の猪飼秋夫講師が執刀した。男児の心臓の大動脈弁を取り除き、心膜を弁の形に整えて縫い付けた。欧米では、成人患者に対して自分の心膜を使った手術が行われているが、国内では人工弁の耐久性が高いため、人工弁を使う手術が一般的だという。しかし、子ども用の小さいサイズの人工弁はないことから、心膜を使った。
男児は術後の経過もよく、近く退院するという。今後は弁が適切に機能しているか経過を見守り、成長に応じて必要があれば人工弁に付け替える再手術をするという。
同センターによると、新生児の大動脈弁閉鎖不全症は大変珍しい。大動脈弁が正常に閉じないと、左室に大動脈の血液が大量に流れ込んで大きくなり、やがて心不全などを起こすという。男児も手術時、心臓が1・5倍程度に肥大していた。
盛岡市中央通1丁目の同センターで記者会見した猪飼講師は「適切な初期治療や搬送、術前診断など、多くの人のおかげで成功することができた。心膜による弁は長くはもたないが、放置しておけば生命の危険があった。将来、人工弁を使った手術ができるチャンスをつくることができた」と話した。
静岡県立こども病院の坂本喜三郎・副院長兼循環器センター長(心臓血管外科)は「生まれたばかりの子どもの大動脈弁は小さく、手術は困難で、成功したことは大変意義がある。今後の治療の可能性が広がってくるだろう」としている。(文章は岩手日報より抜粋)
手術の様子をムービーでご覧いただけます。

左心室から大動脈への出口にある弁が大動脈弁です。本来は3枚の弁尖から成り立っている大動脈弁が、先天的に2枚や1枚の弁尖として出来上がってしまった先天性の弁膜症です。症状出現は生直後から重篤な症状を呈する場合から中高年以降に初めて判明する場合までさまざまです。同じ二尖弁でも弁が狭くなる狭窄症を呈する場合、弁の逆流が生じる閉鎖不全症を呈する場合、またその両方を呈する場合と病態もさまざまです。
このような大動脈弁疾患に対して従来は機械弁や生体弁などの人工弁置換術やご自分の弁を修理する大動脈弁形成術が行われてきました。機械弁はワーファリンなどの抗凝固薬内服が必要であり、生体弁では弁自体の構造的劣化といった、避けて通れない問題があります。ご自分の弁を修理する大動脈弁形成術も二尖弁という形態が変わらない以上、長期的には再狭窄の可能性が残ります。そこで近年注目されている方法が、ご自分の心膜を利用して大動脈弁を再建する方法です。これは東邦大学医療センター心臓血管外科の尾崎重之教授が2007年から臨床応用されている方法で、これまでに800例以上の患者さんが手術を終了し、その有用性が明らかとなってきました。特にスポーツをされる方や挙児希望の女性など、若年の方にはメリットが多い方法と思われます。
当院では2018年より、自己心膜による大動脈弁再建術を導入し、同年1月に若年女性に対して同手術を施行し、良好な結果で終了しました。今後も適応を吟味しながら若年の方を中心に同手術を導入していきたいと考えております。詳しい情報が必要な方はお気軽にお問合せください。
術前エコー・術後エコー動画でご覧いただけます。

術前エコー 先天性二尖弁で重度の大動脈弁閉鎖不全が認められる。

術後エコー 自己心膜で再建された三尖大動脈弁が良好に開閉している。大動脈弁閉鎖全は微量へ改善した。

従来、弁膜症や先天性心疾患に対する開心術(人工心肺、心停止下の心臓手術)はほとんどが胸骨正中切開で行われてきました(図A)。 図A:通常の胸骨正中切開 しかし、近年、患者さんの負担軽減や手術痕の美容的観点を考慮して、いろいろな施設で低侵襲心臓手術(Minimary Invasive Cardiac Surgery, MICS)が行われるようになってきています。低侵襲心臓手術は、皮膚切開を小さくし、胸骨をすべて切らずに部分的に切ったり、胸骨は全く切らずに右肋間開胸で心臓に到達したりする方法です(図B、C、D)。 図B:低侵襲手術(MICS)による僧帽弁形成術後の手術痕 術野が小さいため、内視鏡を使用したり、通常は心臓そばに取り付ける人工心肺を足や首の血管から装着したり、特殊な手術器具(時に手術用ロボットなど)を使用したりする必要がありますので、手術の難易度が上がります。当院でも、患者様の病態や手術術式などの条件が許されれば、積極的に低侵襲心臓手術を導入する方針としております。対象となる手術術式は大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、心房中隔欠損閉鎖術などです。詳しい情報が必要な方はお気軽にお問合せください。 図C:低侵襲心臓手術(MICS)による大動脈弁置換術後の手術痕 図D:若年女性に対する低侵襲心臓手術(MICS)による心房中隔欠損閉鎖術後の手術痕